患者と家族の体験談

岡澤 潤次さん(76)
“薬が効かない”頻尿でお悩みの方に「iNPHを知ってほしい」
ご紹介文
2022年1月に大阪回生病院でVPシャント術を受けた岡澤さん(76歳)。1年ほど泌尿器科に通ったが改善の兆しが見えなかった。そんな時に道路で転倒、iNPHだと分かった。「おしっこのコントロールができるようになり、それが自信になっている。」と話す岡澤さんと娘さんにお話をうかがった。
異変を感じたのはいつ頃でしたか?
患者さんの岡澤さんは、
「5~6年前にまだ私が大学で働いていた時、“廊下”でつまずいたことがありました。学生に“これが本当の老化現象”と冗談を言って笑っていたのですが、2021年12月に同じようなことが自宅までの帰り道で起きました。」
と話す。道路で転倒し、うずくまっていたところを、通りかかった方に家まで送ってもらったそうだ。娘さんは、
「このことを母に聞いて、父が弱っていることを認識しました。トイレに間に合わないことが多くなり、1年ほど泌尿器科に通い、薬を飲んでいましたが悪くなる一方。体を動かしていたいタイプだったのに、畑に出ても疲れてすぐに帰ってきたり、足が上がらず、すり足で歩いていました。それでも、歳のせいだろうと思っていたんです。」
と当時を振り返った。
病院を受診したきっかけは?
道路で転倒し、体力をつけてほしいという娘さんのすすめで体操を始めた岡澤さん。家族で体操の復習を自宅でした時に、ある出来事が起きる。
「左右対称の動きをする体操をしたとき、父が左右非対称の動きをするんです。『左右別々になっているよ』と指摘しても、『そんなことない、左右対称に動いている』と父が言い張るので、これはおかしい、もしかしたら脳の病気かもしれないと思いました。」
このことがきっかけで、娘さんは脳神経外科の病院を探し、大阪にある脳神経外科を受診。MRI検査でiNPHの可能性があると診断を受け、大阪回生病院の宮﨑先生を紹介されたという。
iNPHの診断を受けたときのお気持ちは?
「初めて聞いて驚きましたが、インターネットで調べると、父と似たような症状の方々が手術で改善していることを知り、父に手術をすすめました。」
娘さんは、岡澤さんが手術で排尿障害が改善したことから、iNPHを一人でも多くの方に知って欲しいと、今回のインタビューを受けてくださったそうだ。
「父は泌尿器科でもらった薬を飲んでいましたが、全く良くなりませんでした。でも手術して今は紙パンツもいらないほどまでに改善しました。思い返すと泌尿器科の待合室に父のように歩行がおかしい人はいて、その方々はもしかしたらiNPHかもしれないのに、泌尿器科の先生がiNPHを知らないために診断がつかず、薬を飲み続けている人がたくさんいると思ったんです。父はiNPHの治療で実際に良くなったので、待合室にいらっしゃる方、そして泌尿器科の先生たちにもなんとかお伝えしたいです。“iNPHかもしれません”と。」
手術をされてからはいかがですか?
岡澤さんご本人も手術をして良かったと話す。
「iNPHの症状として、歩行障害・尿失禁・認知症があると聞きましたが、一番改善したと思うのはおしっこのコントロールです。家族にも迷惑をかけていたと思うけど、本当に良くなって、自信になっています。」
今は尿意に気づけるようになり、トイレまで我慢もできるため、紙パンツもしていないという。
「父は手術してから1回も泌尿器科に行っていませんし、薬も飲んでいません。排尿コントロールができるようになってから、動けるようになったので運動不足もなくなり、何もかも良い方向に向かっています。会話していても反応が良くなりましたし、朝、畑に出かけると3時くらいまで戻らないので心配になるくらいです。」
娘さんのお話しから、歩行や認知症状も良くなったことがうかがえる。
「今はもう少し早く帰って来いと叱られることもあります(笑)。歳をとるのは仕方がないですけど、iNPHの場合は、私みたいに治る可能性がある。普通に戻った患者代表として、iNPHという病気があると言うことをお伝えしたいです。」

大阪回生病院
宮﨑 晃一先生より
岡澤さんは水頭症の症状で“排尿障害”が特にきわだっていた珍しいケースでした。しかし、画像診断でDESHが確認され、タップテストの結果も良好だったため、自信をもって手術を勧めました。現在は排尿コントロールができるようになり、ご本人とご家族がiNPHを知ってほしいと言ってくださるほどです。
岡澤さんのように“排尿障害”が出るだけのiNPHの方はたくさんいらっしゃるかもしれないです。しかし、「頻尿=頭の病気」と疑うのは本当に難しいため、見逃されているケースは多いのではないでしょうか。ただでさえ、iNPHの3徴候の中でも“排尿障害”は研究が進んでいない症状ですし、整形外科では、高齢者で歩行障害が出た場合、頭の検査をすることは多くなってきましたが、泌尿器科はまだその文化はないと思います。「治りにくい高齢者の頻尿、もしかしてiNPHじゃないですか?」と疑がっていただけるような啓発活動が大事になってくるかもしれません。