患者と家族の体験談

後藤 美千代さん(69)
早めの手術で
生活の質が向上。
「自分の力で生きていける」
ご紹介文
2021年5月に大阪回生病院でVPシャント術を受けた後藤さん(69歳)。2021年2月、商店街でのある出来事がきっかけで、iNPHと判明する。手術から1年、「色んなことの巡りあわせでiNPHと分かった私はラッキーです。」と話す後藤さんにお話をうかがった。
異変を感じたのはいつ頃でしたか?
「2021年2月に商店街で足が言うことを聞かなくなったことがありました。どんどん速足になり、止まろうと思っても止まってくれない。」
後藤さんは商店街の閉まったシャッターに自らぶつかり、無理やり足を止めたという。
「40代でメニエルを発症したので、ふらついたりすることはあったんですが、最近ひどいなと思っていた頃だったんです。主人を脳腫瘍で亡くしたこともあり、脳の病気かもしれないと思いました。でも、その2年前くらいから階段は手すりの横を歩くようにしていたし、歩幅が狭くなり前のめりに歩くようになったので、徐々に悪くなっていたんでしょうね。“シンニョウ”が書けないし、6や8を書くと、1に見えると言われたこともありました。全部歳のせいかなと思ってたんだけど…」
病院を受診したきっかけは?
「早く病院に行かなきゃと思ってはいたんですが、外出も怖いし、先延ばしにしていました。でも、主人の命日になんとか出かけてお寺に行くと、偶然知人に会ったんです。」
後藤さんは商店街の出来事を話すと病院に行くよう約束させられたという。
「めったに出かけなくなっていたのに、主人の命日に出かけて、お寺という場所で久しぶりに知人に会って、これは主人が行けって言ってるのかなと思いました。」
後藤さんは近隣の脳神経外科リハビリクリニックを訪ね、iNPHという診断を受ける。
「色んなことが重なって病気が早く見つかった私は本当にラッキーです。お寺で知人に会わなかったら、何かと理由をつけて病院に行ってなかったと思うので。」
iNPHの診断を受けたときのお気持ちは?
「最初はパーキンソン病か、脳腫瘍か、水頭症(iNPH)どれかの可能性があると診断され、MRIの結果を見て先生に言われました。『おめでとうございます。水頭症です。』って。だから私も『ありがとうございます』と答えました(笑)」
後藤さんはユーモアたっぷりに当時のことを話してくれた。
「よく知らない病気だから薬を下さいと先生にお願いすると、手術しかないと言われて『えー、いや!』と驚きました。でも、クリニックの先生が『比較的簡単な手術だし、手術したら生活が全然変わる、希望ある手術ですよ。』とおっしゃったんです。」
その言葉に背中を押され、先生に紹介された宮﨑先生のところでタップテストを受けることになる。
手術をされてから
「タップテストですごく良くなった実感があり、手術を決めました。”すぐ”良くなったとは思わなかったけど、月ごとに良くなっていきました。最近は高野山に、クリスマスは神奈川の長女の家に行きました。新幹線に乗って、以前のように地下鉄を乗り継ぎ、最寄り駅まで一人で行けたんです。段取りよくスムーズに行けたことが本当に嬉しかった。”シンニョウ”も数字も書けるようになりました。もうすぐ70歳になるけど、あと20年は日々楽しみたいという気持ちがあったんです。寿命があって、生かされてるんだったら、できるだけ自分の力で生きていきたいなって。」
その言葉通り、後藤さんは未来に向かって充実した毎日を過ごされているようだ。

大阪回生病院
宮﨑 晃一先生より
後藤さんは突進現象があり、線路に飛び込みそうになるため、電車が怖くなっていたそうです。プランニングや図形を描くことが苦手になるなど、脳全体を広く使いにくくなってはいましたが、MMSEは手術前から満点でした。しかし、ふらつきをなくしたいというご希望があり、それをコミットするタップテストの結果だったので手術をすすめました。手術後、TUGは16秒から10秒に改善し、趣味や仕事ができるようになったと大変喜んでいらっしゃいます。後藤さんは受診するのを躊躇っていたとうかがいましたが、場合によっては車イスになってから受診され、手遅れになることもあります。後藤さんの生活の質が一段階上がっているのを見ると、早めの段階で受診いただく大切さを実感します。