iNPHという病気〜治療できる歩行障害・認知症・尿失禁があります〜 患者と家族の体験談 ディックさんの場合
  • ディック クランツさん(Dick Kranz)

    当初、アルツハイマー病と考えられていました。
    この話は、素晴らしいディックの闘病を立証するものです。

診断が下されるまでの苦悩の数年間

イメージ画像断続歩行、尿失禁、運動失調さらに認知症の初期徴候と記憶障害といった特徴的な症状が明らかに見られたものの夫のディックが特発性正常圧水頭症と診断されたのは数年経ってからと思います。この数年間は私たちにとって非常に苛立ちと苦痛の日々でした。夫はいつも冷静でしたが、時おり、歯を固く食いしばり、両手を両拳にしてねじ曲げている夫を見ることがありました。夫はいつも困惑と敗北感にさいなまれていました。

夫に何が起きているのか?

夫に何が起きているのか、家族の誰もわかりませんでした。私は夫がアルツハイマー病になってしまったと思い、子供をそばに引き寄せて自分の判断を伝えるつもりでした。子供達はそのことを受け入れたくない様子で私自身もその一人でした。
ある時、理学療法士に往診してもらい、ディックの歩行訓練をしてもらいました。このような訓練や運動をしても、再び普通に歩けるようになるとは思えませんでした。夫本人の気持ちをさら落ち込ませたのは膀胱機能の障害です。その結果、たびたびのお漏らしで、衣類やシーツ、枕カバーの交換でやりきれない日々になりました。

外国語のような訳のわかならい病名…インターネットで水頭症協会を発見

さらに数年かけて、腕力のあるハイヤードライバーの助けを借りて、私達は苦労しながらも医師達の助言を求めて病院、診療所を訪ねましたがなかなか状況は明るくなりませんでした。診断にかすかな望みを抱いたのは、若くて、明るく熟練した神経科医に会ってからでした。その医師はすぐにCTスキャンと脳槽造影を行う手続きをとりました。その結果、特発性正常圧水頭症の所見と一致しました。やっと夫の診断がついたのです。しかしながら、ディックの病名は私たちにとって外国語ような言葉で訳の分からないものでした。しかしご加護がありました。子供は非常にありがたいものです。すぐにインターネットに接続し、医師、患者と連絡を取って、遂にサンフランシスコに本部を置くアメリカ水頭症協会を見つけました。アメリカ水頭症協会のやさしい援助と励ましで正常圧水頭症治療は次の段階に入りました。つまりシャント手術という方法があることがわかったのです。脳神経外科医は、シャント機能不全や合併症の発生の可能性はあるが唯一信頼できる治療方法として説明しました。陽が燦々と降り注ぐ晴れた日に、診断が終わって家に戻り、エリー湖の岸辺をたどりました。ディックは「湖のボートにもう一度行ってみよう」といいました。ディックの目には涙が溢れ、希望に満ちていました。

シャント手術の成功。そして4日間の素晴らしい日々が戻って…

ディックの受けたシャント手術は成功し、4日間入院しました。ディックは私たちと一緒に過ごしました。その4日間というもの、たいへん洒落がうまく、精力的で頭脳明晰なディックに戻りましたが、その後、脳卒中でディックを失いました。新しい生活をとても待ち望んでいたのに悲しい終わりでした。

なぜこの脳室の状態に気付かなかったのか?

ディックの死後、かつてのディックの頭部CTスキャン写真を見つけました。それは特発性正常圧水頭症と最終的に診断される6年も前に撮ったスキャン画像です。それには隠し仰せない異常な脳室の拡大がはっきりと写っていました。いったい誰がそのCTスキャンを診たのか。なぜこの脳室の状態に気づかなかったのだろうか。今日でもこのCTスキャンのことは残念です。もし特発性正常圧水頭症の発症当時にさかのぼってあらためて診断できるなら、今ごろディックの状態はどうなっていることでしょう。仮説はたくさん立てられます。ただ、あの状態が早期に発見できていたならば、治療成績は素晴らしいものになっていただろうとだけ今はいっておきましょう。

正しい検査と診断で、治療は素晴らしいものに

確かに、特発性正常圧水頭症の診断は必ずしも容易ではありません。症状が他の老人疾患や加齢の状態にきわめて似ているからです。それでも私の気持ちとしては、高齢者の「精神的疾患(認知症)」を検査するときは特発性正常圧水頭症を念頭に置いて検査するべきであると思います。

まだ一般的な知識にはなっていませんが、脳神経外科医と神経内科医のすばらしい研究のおかげで、特発性正常圧水頭症はこれまで以上に容易に確認、診断できるようになりました。シャントシステムの技術も引続き進歩して、現在は外部からプログラムと調整ができるシャントシステムもあり、治療は大きく前進しています。

熱心な医師の努力と研究および病気と闘っている患者をサポートしているアメリカ水頭症協会のおかげで特発性正常圧水頭症とその治療法に関して多くのことを知ることができました。今、彼らの研究と努力によって、多くの患者と家族に希望をもたらしています。
この話は、素晴らしいディックの闘病を立証するものです。

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